ウー倒しは冬の作業です。
通常は11月から2月まで。サトウキビの刈り入れと少し重なります。
むかしサトウキビの収穫といえば村あげてのゆいまーる作業でしたが、最近は刈倒型収穫機というすごい機械があって、刈り取って、小さくカットして、まとめて工場へ届けるまで、全部機械がやってくれます。運転手と作業員2人だけで、あっというまに終えてしまいます。
世の中はどんどん進歩しているんですね。
ところが(当然ともいえますが)糸芭蕉の刈り入れ作業は進歩とは無縁です。
1本ずつ鎌で倒して手で裂いて、部位ごとにまとめて工房に持ち帰る。
昔ながらのやり方です。
先日、カメラマンの方が畑の撮影に来てくれました。
ドローンを使って上空からみた畑の写真も撮ってくれました。
思ったより芭蕉がビッシリ詰まっています。数えたことはないけど7千本くらいあるらしいです。
こんなたくさん、どうしましょう!!
もちろん、これを全部倒すわけではありません。(サトウキビとは違います。)
3年目くらいの成熟した(繊維の良い)芭蕉だけを選んで倒していきます。
上の方まで枯葉で包まれたのが成熟したしるしです。
倒し始めると、次から次へと枯葉に包まれた芭蕉が目に入ってきます。
「早く早く私も倒して」という芭蕉の声が聞こえるような気がします。
工房の竃(かま)の大きさを考えると25本くらい倒せばいいのですが、これが最後の25本目!と思っても、倒して欲しそうな芭蕉が目にはいってくるので、もうちょっとだけ倒そうかという気になってしまいます。
だって、そのままにしておくと花がついてしまいそうだから。
花がついた芭蕉は『トーバサー(薹芭蕉)』といい、処分することになります。
キャベツなどの葉野菜と同じで、花がついた芭蕉は良い実を作るために花に向けて栄養を送るので、葉に栄養がいかなくなります。花のついたキャベツは売りものになりません。
糸芭蕉も同じで、繊維の質が落ちるので工房では処分することにしています。
上のように花と実がついた芭蕉は、良い繊維は採れないので、さっさと倒してその場にうち捨てて土に還るのにまかせます。
芭蕉布は糸芭蕉の葉の繊維で織ります。
というと、大きな緑の葉っぱを想像する人がいるようですが
緑の部分はバッサリ切り捨てます。
繊維になるのは、その下の部分です。
この部分は茎に見えますが、実は葉っぱです。
何枚もの柔らかい葉っぱが重なって茎のように見えるので偽茎(仮茎)といいます。
植物学的には、バナナは草なのだそうです。
芭蕉布用の繊維は、重なった葉(偽茎)を一枚一枚はがして、その厚みのある葉を表側と裏側に裂いた表側だけから採ります。
おなじ偽茎から剥がした葉でも、それがどの部分にあったかで、質に違いがでるので分類しなくてはいけません。
外側の葉は硬いので丈夫なマットなどに適した「ウワーファー」、中ほどの葉は帯などに適した「ナハウー」、一番内側の葉は柔らかく細くてしなやかなので着尺用にも使える「ナハグー」です。
それぞれまとめて工房に運びます。
昔から、ウー倒しは11月から2月の間に行なうことになっています。
この時期の畑作業は、涼しいし虫も少ないので快適です。
ところが、私は4月になっても作業が終わりません。
他の人たちは、とっくにそれぞれの担当エリアを刈り終えているので、畑には私ひとりです。
私は初心者のくせに1月2月に忙しくしていたので、出遅れたのです。
でも、まだうりずんの季節で涼しいから大丈夫!
と自分を納得させて作業していました。
ところが、先週のウー倒しは大変でした。
昼食をとってからのんびり畑に行ったのが悪かったかもしれません。
日差しが強くてびっしょり汗をかきました。
作業に手間取っていたら5時すぎてしまい、耳の近くで蚊がブーンブンと飛びはじめました。
これがめちゃくちゃ頑強な蚊で、長袖のシャツをものともせずに刺してきます。
左手にウー、右手にウーハギ用のナイフを持っている私には、なすすべはありません。
3日も4日もカユイカユイと掻きむしるという悲惨な思いをしました。
まだ2、3回刈り取りに行かなくてはいけないのに、どうしましょう。
先人が伝えてくれた教えは、実に道理にかなっているんだなあと納得した次第。
ウー倒しは、2月中に終わることをおススメします!!